ツルハシブックスが閉店するって本当ですか!? 【インタビュー】

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この記事のライター マルヤマトモコ(フリーライター)

【問題】なぜ「ツルハシブックス」という名前なのでしょうか。正解はインタビューへ!

【問題】なぜ「ツルハシブックス」という名前なのでしょうか。正解はインタビューへ!


「マルヤマさん、お煎餅食べません?」

ここは新潟市西区内野の本屋さん「ツルハシブックス~ジブン発掘本屋」(以下ツルハシブックス)。気さくに話しかけてくれたのは初対面の店員サムライ、石黒さんだ。
※ツルハシブックスではスタッフのことを「店員サムライ」と呼びます(以下サムライ)。

こんな風にフラットに話しかけてくれて、一緒にお煎餅を食べながら特に本の話をするわけでもなく雑談を楽しむ。入り口にはいろんな干物が入った冷蔵庫が。「結構売れるんですよ」(石黒さん)。

本と一緒に干物も売る、そんな不思議な本屋さん「ツルハシブックス」が今年(2016年)の11月5日(土)に閉店する。

気づきを与えてくれる本と様々な人と出会える店内。よくみると閉店のお知らせが黒板に書かれていた。さみしい。

気づきを与えてくれる本と様々な人と出会える店内。よくみると閉店のお知らせが黒板に書かれていた。さみしい。


でもこれで終わりではなく、これからいろいろな展開があるらしい?

むしろツルハシ、全国に拡大中!?
え、本屋なのに本を売りたいわけではない!?

知るほどに謎が深まるツルハシブックスのこれからを、店主・西田さんのインタビューを交えてお伝えします。

そもそも、ツルハシブックスとは?

表紙がしっかり見えていたり、ポップが付いていたりと、丁寧に紹介されている本たち。

表紙がしっかり見えていたり、ポップが付いていたりと、丁寧に紹介されている本たち。

内野駅の目の前というロケーションで、2011年にオープンしたツルハシブックス。雑誌、絵本、小説、ビジネス書など取り扱う書籍は多岐にわたる。ただし本棚は少なく、1冊ずつの“顔”がしっかり伝わってくるレイアウト。将来に迷う若者に、偶然の出会いを提供し、一歩踏み出すきっかけを創る本屋として、「~しなければならない」ではなく、前向きなタイトルのものがセレクトされている。

特に地下にある「地下古本コーナーHAKKUTSU」は29歳以下しか入れない、暗闇の中で懐中電灯片手に、寄贈者のメッセージが添えられた本を手に入れられる空間として注目を集め、NHK新潟放送局が制作した特集番組は全国にも放送された。

「地下古本コーナーHAKKUTSU」の様子をちょっとだけ公開。

「地下古本コーナーHAKKUTSU」の様子をちょっとだけ公開。

ソトコト他、様々な雑誌や書籍にも紹介されてきたツルハシブックス。

ソトコト他、様々な雑誌や書籍にも紹介されてきたツルハシブックス。

詳しくは、以前にいがたレポで唐澤編集長が執筆しているので、ぜひこちらをご一読を。

1日の来店者数20人くらいからスタートしたツルハシブックスも、5年の歳月を経て多くの若者たちにとっての新たな出会いの場として認知が広まり、現在では東京と長野に関連する空間がオープン。今後神奈川と大阪でも開店準備が進むなど、全国にその動きが広がっている。今後新潟の店舗は、閉店後一部機能が近所のお米屋さん「飯塚商店」に移設されるとのこと。

一滴の水が大きな波紋を広げるがごとく、静かに確かにたくさんの若者の心を動かし、ツルハシブックスは閉店という一つの区切りを迎え、どこへ向かおうとしているのか。

そんなツルハシブックスを生み育ててきた店主・西田卓司さんにお話を伺った。

店主・西田さんインタビュー
「予期せぬ学びをデザインする本屋」の未来

※以下敬称略

ーいよいよ1ヶ月を切ってしまいましたね。

西田:やめたくないなぁ。

発起人であり店長の西田卓司さん。千葉県木更津市から大学進学をきっかけに新潟へ移住し、1999年から巻町に参加型の畑「まきどき村」を作ったり、そこで朝ごはんイベントを開いたり、自宅兼ゲストハウス兼本屋を作ったり、15年くらい時代の先を行き過ぎてる人。

発起人であり店長の西田卓司さん。千葉県木更津市から大学進学をきっかけに新潟へ移住し、1999年から巻町に参加型の畑「まきどき村」を作ったり、そこで朝ごはんイベントを開いたり、自宅兼ゲストハウス兼本屋を作ったり、15年くらい時代の先を行き過ぎてる人。

ーそもそも「ツルハシブックス」という名前はどこからつけたんですか?

西田:まきどき村(西田さんが大学院時代に立ち上げ現在も続いている、畑で野菜を育てたり朝ごはんを食べたりするコミュニティ。現在西蒲区の佐藤家という古民家で継続中。詳しくはこちら)をやる時にツルハシで掘っていたので、その原点を忘れないように、というところからきてるんです。

ーここに来るとサムライの皆さんがあまりにもフラットに接してくれたり、自然と他の人としゃべれたりするのでびっくりするんですよね。おやつ出してもらったり、長居ウェルカムな空気だったり、本屋のイメージと真逆です。

西田:うんうん。本屋をやりたいわけであって、本を売りたいわけじゃないんです

—そうなんですか!?

西田:不登校の子の家庭教師をしていた頃から、中高生のためのどういう場所が地域には必要なんだろうと考えていて。中高生がしょーもない大人と出会うのが大事。その方法として本屋に行き着いたんです。

サムライの石黒さん。「ここで店員をしたことで、今まで『これが好き!』というのがあんまりなかったのが、『こういうのが好き』というのが少しずつ見えてきたり。色々な話を聞いて、色々な生き方があることを知ったのは大きいです」。

サムライの石黒さん。「ここで店員をしたことで、今まで『これが好き!』というのがあんまりなかったのが、『こういうのが好き』というのが少しずつ見えてきたり。色々な話を聞いて、色々な生き方があることを知ったのは大きいです」。

ー若い子が色々な価値観に触れられる場所を作りたかった?

西田:そうなんです。それをベースにして、こういう店員をやりたい人の学びの場になっているところがツルハシブックスの面白いところなんじゃないかと思っていて。実はお客さんよりもサムライの方が多くのものをもらっている。そういうことなんじゃないかなと。サムライがサムライをやることで自分の感性に自信を持てるようになったと言ってくれるので、ツルハシブックスをやってそれが一番良かったなと思います。

サムライの井上さん:最初は可愛い本屋だし楽しいな、という感じだったんですけど、ここがあるおかげで毎日が楽しかったり、ちょっと離れるとツルハシどうしたらいいかなとかすぐ考えちゃいますね(笑)。

筆者、新潟の友達と共に東京の友達をツルハシにアテンドしたときの一コマ。一番右が井上さん。井上さんはツルハシブックスで西田さんと出会ったことがきっかけで「コメタク」という活動をスタート。詳しくはこちらhttp://kometaku.net/wp/

筆者、新潟の友達と共に東京の友達をツルハシにアテンドしたときの一コマ。一番右が井上さん。井上さんはツルハシブックスで西田さんと出会ったことがきっかけで「コメタク」という活動をスタート。

※コメタクについて、詳しくはこちらをチェック!

ー代名詞とも言える「地下古本コーナーHAKKUTSU」はどうやって思いついたんですか?

西田:2011年6月、学校町で開催された一箱古本市に出店したとき、隣に出店していたおじさんの店が綺麗でまだ新しい本を1冊100円で売っていて、それが飛ぶように売れていたんです。でも「あ、きっとみんな読まないだろうな」と気付いたんです。読まないなら、大人に古本を100円で売るのはやめようと思って。中高生だと100円の価値が違うからきっと読む。だから100円で古本を売るのは若い人だけにしようと思ったんです。たまたま地下室は空いていて面白いことをしたかったし、そういうコーナーにすればいいかなと。ドラクエ世代なんで、だいたい宝物は地下にあるわけです(笑)

入り口のドアからして熱量が高い。思いっきり「学校帰りのそこの君へ」と学生たちに熱いアピール!アピール!アピール!

入り口のドアからして熱量が高い。思いっきり「学校帰りのそこの君へ」と学生たちに熱いアピール!アピール!アピール!

_そういう経緯だったんですか(笑)!

西田:古物商の免許の関係で買い取りができないから買い取らないことにして。あそこに置く本は色々な人たちから寄贈してもらった本なので、せっかくならメッセージをつけてもらって。

「地下古本コーナーHAKKUTSU」の本はカバーがかかっているので、メッセージを頼りに選ぶ。気持ちのリレー。

「地下古本コーナーHAKKUTSU」の本はカバーがかかっているので、メッセージを頼りに選ぶ。気持ちのリレー。

ー運営方針は西田さんが決めるのではなく、サムライの皆さんと合宿で決めていたとも聞きます。それも独特ですね。

西田:ツルハシブックスでは「お金を払うからお客さん」ではないんです。お客さんというのはみんな、ツルハシブックスという本屋を作る人。一緒に作る共演者だから、「俺は客だ」というお客さんがいない、一般的な「お客さん」の概念がそもそもないわけです。半年に一度サムライみんなで合宿をして、誰のために何を提供する店かというのを一から確認し、作り直す。運営上のいちばんのポイントはそこですね。

ーそこで方向性を確認すると。

西田:「同じ船に乗る」と言っているんですけど、この船がどこに向かっているかというのを確認する作業を、無意識だけど丁寧にやっていますね。そこに向かって学びがあるから楽しいし、どうしたらそこに行けるか一人ひとりが考えないといけないから、そういう意味ではすごいエンターテイメントだと思っています

ーなぜツルハシブックスを内野で始めたんですか?

内野にツルハシブックスあり!

内野にツルハシブックスあり!

西田:前々から「農業×福祉」という展開をしていきたいと思っていて。今は仕事が機械化・オートメーション化されて、若い人や障害者の人の雇用に大きな影響が出ているんですよね。そこを是正していくためには、一次産業や二次産業、そこからの六次産業化が重要で。内野は片や農村部が、もう一方には都市部が広がっているんですよ。そこに土地としての魅力を感じて。だからまずは本屋をやって土地に若者を呼ぶ形を作って、次は米屋という食の方に行って(ツルハシブックスは機能の移設など米屋の飯塚商店と密接に関係している)徐々に「農」が繋がり、その先には「福祉」があると描いているんです。

店舗の一画には「カラバコ」と呼ばれる、サムライがそれぞれオススメの本や雑貨の紹介や販売を行っているコーナーが。新刊書や古本とも違う、十人十色の感性との新しい出会いがある。手前の机スペースでは、お客さん同士がお茶をしたり団欒したりリラックス。

店舗の一画には「カラバコ」と呼ばれる、サムライがそれぞれオススメの本や雑貨の紹介や販売を行っているコーナーが。新刊書や古本とも違う、十人十色の感性との新しい出会いがある。手前の机スペースでは、お客さん同士がお茶をしたり団欒したりリラックス。

ーまだまだどんどん広がっていきますね。

西田:若者が地域に参加する仕組みはこの5年でできているので、今度は自分でやるだけじゃなくて、企業と組んでそれが全部一緒になっていくことをやっていこうかと思っています。そこには必ず学びがあるわけで。学び合いの仕組みを作ると、そこがエンターテイメントになって、若者が集まる。それをどう経済社会とコミュニケーションするか、でしょうね。

ーふむふむ。

西田:地域活動の目的って予想できなかった学びにあると思うし、それが個人にとっての最大のエンターテイメントだと思うんです。そしてそれが人の心を揺さぶる。ツルハシブックスのサムライもみんなそうで、本屋はそういうことの宝庫なんです。一番大事なのはそこ、予期せぬ学びをデザインするということ。大学でも(※現在西田さんは茨城県にある大学の職員でもある)学生に「予期せぬ学びから生まれる生の声、それが人の心を揺さぶるんだ」と伝えています。

ツルハシブックスが生まれて、コメタクが生まれて、コメタクからも朝ごはんイベントが生まれて、その流れでふろふき大根のくるみ味噌添えを取材中に筆者がいただいたのも予期せぬ経験。美味!

ツルハシブックスが生まれて、コメタクが生まれて、コメタクからも朝ごはんイベントが生まれて、その流れでふろふき大根のくるみ味噌添えを取材中に筆者がいただいたのも予期せぬ経験。美味!

ちなみに冒頭でお煎餅をいただいたあと、お客さんからの差し入れという水羊羹まで出てきた!人生後にも先にも本屋さんで水羊羹をいただく経験はないかと思う。

ちなみに冒頭でお煎餅をいただいたあと、お客さんからの差し入れという水羊羹まで出てきた!人生後にも先にも本屋さんで水羊羹をいただく経験はないかと思う。

ーツルハシブックスは閉店してしまいますが、ビジョンを今後どうやって形に落とし込んでいきますか?

西田: もうツルハシブックスって、ただこの店舗を表現する言葉じゃなくて、概念なんですよね。書店としては近所のお米屋さん「飯塚商店」さんに一部機能を移転します。そして、もうちょっと広く捉えるというか、ツルハシブックスを入り口にしてそこから街に出ていく風にしようと前から思っていて。お米屋さんと一緒にやることで結構そういう形になるんじゃないかな、と。お米食べるためには買い物にも行かなきゃだし、街を歩くと思うんです。そこからですね。

ーまだまだこれから、色々な展開がありそうですね。「閉店」と聞くとどうしても終わりのイメージがあったのですが、むしろ次の大きなジャンプへ踏み切るための着地に思いました。ありがとうございました。

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店内にはフライヤーや内野のおすすめマップ、西田さんの古本コーナーなど、様々なプラススアルファの仕掛けが織り込まれている。地域とのつながりや、ここでしか出会えないリアルな経験は、ツルハシブックスを訪れる醍醐味の一つ。

店内にはフライヤーや内野のおすすめマップ、西田さんの古本コーナーなど、様々なプラススアルファの仕掛けが織り込まれている。地域とのつながりや、ここでしか出会えないリアルな経験は、ツルハシブックスを訪れる醍醐味の一つ。

 

このインタビューは最初、新潟駅前の喫茶店で行われました。
その時、ガラス越しに西田さんを見つけてわざわざ外からお店に来た女子大生の子が。高校生の時ツルハシブックスに通っていて久しぶりの再会を喜んでいました。

サムライの加藤さんは西田さんに誘われて東京から新潟に移住して、介護の仕事をしながら時々サムライをしていますが、「新潟に来て考え方がすごく楽になりました。色々な人の話を聞いて、自分のことを認められるようになりました」。

他にもお店で初めて来店した子が自然と西田さんと話していたり、「あれ?今日西田さんいるの?」と声をかける学生が登場したり、「あの子は小学五年生の時からきていて中学三年になったんだよ」と教えてもらったり。。。。それが「ツルハシブックスの日常」とのこと。

5年の歳月が育んだ、確かな時間の重みとツルハシブックスが関わった人すべてに提供してきた価値の大きさを垣間見た気がしました。

西田さんは現在茨城県の大学に勤務していることもあり、今後ツルハシブックスの現店舗に登場するのは11月3日・4日・5日のラストウィークエンドのみになります。

その後もWEBサイトやFacebookは引き続き運用し、ツルハシブックスという“舞台”を一緒に作る劇団員制度(詳しくはこちら)も続くそうです。飯塚商店での営業など今後の詳細はそちらでチェック(文末にリンクあり)!

また、内野だけにとどまらないツルハシブックス。長野(伊那)では、お客さんとしてツルハシブックスに来た大学生が「ツルハシブックスみたいなことがやりたい!」と書店をオープン!そしてすでに活動中の東京(練馬)に加え、開店準備が進む神奈川(川崎)&大阪(千林)と全国に広がるツルハシブックスの魂。原点である内野の店舗は、近い将来伝説的な存在になる気がしてなりません。そう、伝説に触れられる時間はあとわずか。

ぜひ11月5日までに、心の新しい1ページをめくりにぜひ足を運んでみてください。
訪れたらきっと、いつものようにサムライがあなたを迎えてくれます。

JR越後線内野駅南口出たら、ちょっと視線を右に!あった!!

JR越後線内野駅南口出たら、ちょっと視線を右に!あった!!

 

ツルハシブックス~ジブン発掘本屋
【営業時間】
平日 12:00-19:00
土・日・祝日 9:00-19:00
(火・水曜定休)
〒950-2112
新潟市西区内野町431-2(駐車場なし)
TEL:025-261-3188
WEB:http://www.tsuruhashibooks.com
Facebook:https://www.facebook.com/tsurubks/?fref=ts

 

この記事のライター マルヤマトモコ(フリーライター)

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※本記事の内容は取材・投稿時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報につきましては直接取材先へご確認ください。