地域の文化的資本が蓄積された図書館。佐渡市畑野の鳥越文庫

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この記事のライター 北 三百輝(きた さんびゃっき)

★畑野鳥越文庫とは★ 小佐渡の山懐に散在する、佐渡の猿八集落は豊かな自然をそのままに、国仲平野を前景に大佐渡の山並みを一望する高台にある。猿八地区にIターンし、精力的に芸能活動を進めていた西橋健氏の取り組みに地区の皆さんが感動、理解を示し、地域活性化のために古典芸能を中心とした地域おこしが始まった。 平成7年の夏、この話を聞いた西橋氏の母校早稲田大学の恩師であり、古典芸能の大家である鳥越文蔵先生がバックアップすることとなり、先生の所蔵する演劇関係の図書約2万冊が寄贈されることとなった。
これを受けて、図書を収蔵する「鳥越文庫」を平成9年に建築、翌10年度には文庫を管理する管理棟も改築し、芸能活動の拠点作りと活動が本格的に始まった。http://www.city.sado.niigata.jp/~lib/torigoe/

佐渡市畑野の小倉川に架かる“カエル橋”こと一宮橋の十字路を飯出山方面に向かって進んで行き、脱輪しないように左右の側溝に神経を尖らせながら山道をひたすら車で上っていくと鳥越文庫なる小規模な図書館がある。 国学者・日本近世演劇研究者で早稲田大学名誉教授の鳥越文蔵氏の蔵書が寄贈された施設だということを以前知人から聞かされ、ずっと気になっていたのだがようやく訪れてみる決心がついた。IMG_0022 着いてみると平屋の公民館のような雰囲気の、玄関の脇から伸びる外壁が何枚もの大きな窓ガラスで占められていて太陽の光を室内に効率的に取り入れられる構造の建物が、すぐ隣にある民家と対になるようにして山の中腹に佇んでいた。隣の民家には施設管理者が生活しているようだ。 民家と鳥越文庫との間に車が8台くらい停められる駐車スペースがあったのでそこに駐車。玄関の扉は閉められていたが「ご自由にお入りください」との案内文が掲げられていたので安心して扉を開けて館内に入った。 IMG_0023館内には係員も含めて一人も人がいなかった。 入り口のカウンターの上に「御用の方は隣に声をかけてください。尚貸し出しはしておりません。ごゆっくりご覧ください」というメモ書きが。カウンターの近くにはプリンタ1台、蔵書検索用のPC端末1台、それからトイレ(男女別)。 しばらくすると隣の民家から管理者の男性が館内に入ってきて照明と暖房を付けてくれた。奥には炬燵もあるのでゆっくりしていって下さい、とのこと。すぐに男性は出て行ってしまったが無愛想な感じではなく、控えめで良い印象を受けた。 IMG_0031 ではさっそくどんな本が置いてあるのか見てみよう。 能や浄瑠璃、歌舞伎など日本の伝統芸能に関する書籍がさすがに豊富だ。その数もそうだが、その古さに何よりも驚いた。 IMG_0038 装丁がぼろぼろになっている本が本棚に敷き詰められている。中には背表紙の劣化が酷すぎて書名が読めなくなってしまったためか紙で補修されて手書きの書名が施されているものも多数あった。 IMG_0040 ところで意外だったのは芸能に関する書籍以外にも様々なジャンルの本が置いてあったことだ。以下写真とともにざっくりと紹介する。

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シャマニズム関連の本

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江戸期国学関連

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和歌・俳句関連

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東京市史稿

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小説の文庫群

西洋哲学関連の書籍もそれなりにあった。その中で筆者の主観でピックアップした書籍がこれだ。 IMG_0055

  • 伴博『カントとヤスパース ―勝義の哲学的人間学への道―
  • 江藤文夫、鶴見俊輔、山本明編『コミュニケーション思想史』
  • 『太平記(上巻)』
  • 出隆『哲学以前』
  • 三島由紀夫『金閣寺』
  • 桜井徳太郎『沖縄のシャマニズム』
  • エルジビェータ・エティンガー『アーレントとハイデガー』

炬燵に入って本をめくり始めた。ちなみに炬燵はこんな感じ。 IMG_0041 かなりアットホームな雰囲気だ。しかし暖房がついていたとはいえ、炬燵に入ったとしてもかなり寒かった。本をめくる手が冷たくなって仕方なかった。 午後2時過ぎに入館して午後4時過ぎに退館。出るときに暖房や照明は全て消しておいた。筆者以外来館者は無く、静謐な時間を堪能できた。 自宅からもう少し近ければ毎週通ってもいいなと。欲を言えば蔵書の持ち込みOKな喫茶店を隣に増設して欲しいと思った。 緑豊かな山の中腹にあるという立地条件から、冬よりも夏に来ると涼しくて快適なのではないかと思う。まあ、能楽・浄瑠璃・歌舞伎等日本の伝統芸能に興味があるという方にとっては季節などどうでも良いことなのだろうが。 IMG_0036 フランスの社会学者ピエール・ブルデューは「金銭によるもの以外の、学歴や文化的素養といった個人的資産」のことを「文化資本」と呼び、個人の社会的階層を決定づける上で文化資本の役割と重要性を説いた。これは飽くまで個人の話である。 ではある地域社会において文化的素養の高まりが見られた場合にこの話を持ち出すことは間違いなのだろうか。私はそうは思わない。 文化・芸能を有り難がり尊重する風土が佐渡にはある。この佐渡地域の文化的素養の高まりが、同水準の文化的素養を持つ地域外の個人、すなわち島外者(日本国内に限らず)の共感を生み、文化活動におけるボーダレスな共感の輪を地域内、すなわち佐渡島内において還元的に形成している。その共感の輪は他分野に渡っていて、この鳥越文庫もそういった潤沢な、いわば地域的文化資本の蓄積によって形成され維持されていると言えるのではないだろうか。 佐渡を訪れたら一度はこの鳥越文庫に足を運んでみてほしい。

図書館情報
  • 畑野鳥越文庫
  • 開館時間:午前9時~午後5時まで
  • 休館日:毎週水曜日・毎月第3金曜日・年末年始(12月28日~翌年1月3日まで)休館日が祝日のときは、その翌日が休館日となります。
  • 住所:〒952-0215 佐渡市猿八329
  • TEL:0259-66-2011
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ライター 北 三百輝(きた さんびゃっき)

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※本記事の内容は取材・投稿時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報につきましては直接取材先へご確認ください。