この記事のライター 北 三百輝(きた さんびゃっき)
両津方面は雪が降っていて天気はお世辞にも良いとは言えなかったので、こんなときの常套手段として佐渡の南部に行くことにした。どういうことかというと、国仲平野という佐渡の中央部にある平野から南の小佐渡の山を越えて越佐海峡沿岸部に行くと、冬の日本海に吹きすさぶ北風がかなり弱まってきて穏やかな気候であることがよくあるからだ。
そこで今回は小木の町を歩いたことをリポートする。
佐渡に限らず地方に住んでいるとどこへ行くにも車で移動してしまいがちになる。車は点と点を線で繋ぐだけで、面として場所を体感しづらくなっていると私は思う。
車が宇宙船だとすると、自宅から職場までの道路は自分にとっては宇宙空間であって、何となくそれが地方都市の閉塞感に繋がっているように思うのは私だけだろうか。(元ネタ:戸梶圭太『バカをあやつれ!』)
そんな中、歩行者が歩ける歩行空間が確保されている場所があるとすれば、そこはは地方都市生活者にとってはオアシスになる。佐渡小木町はそんな場所の一つだ。
以前小木町を訪れた際、小木町の観光をアピールするパンフレットのようなものを目にしたことがある。そこに何ともキャッチーなフレーズがあった。
“小木しなしなまち歩き”
しなしなまち歩き…。素晴らしい!宇宙空間の中で窒息気味だった体を、町をぶらぶらと歩くことで生き返らせる。失っていた何かを取り戻せそうだ。
そういえばヴァルター・ベンヤミンも『パサージュ論』でパリの遊歩道をぶらぶらと歩く歩行者について都市論と併せて論じていた。歩行空間の消滅が先なのか、それとも歩行者の消滅が先なのかいまいち判然としないが、需要と供給の関係でどちらが先かというものでもないのかもしれない。
いずれにせよ車社会化が行き過ぎた地方で「ぶらぶら歩く」もしくは「しなしな歩く」という行為は自分が歩行者となって歩行空間を維持・拡大していく行為であり、点と線だけの場所体験を面での場所体験へと拡張する革命的行為なのだ…!
さあ、小木しなしなまち歩き、Gary Moore「パリの散歩道」とともにお伝えしよう。
前置きが長くなったが小木に着くと雪もなく空は晴れ渡っていた。
小木町の歩行空間は内ノ潤という湾を半円状にぐるりと囲むようにして広がっている。今回は小木図書館方面から小木Aコープ方面に向かってぶらぶらと歩き、途中で引き返して木崎神社を過ぎて城山公園まで歩いた。
このように一見普通の住宅街なのだが歩いていて妙にワクワクしてくるのはなぜだろう。
それは通りから別の通りへと抜けるための小道がこのように家屋と家屋の距離が非常に狭くなっていて(まさに奥の細道)、非日常的な世界に車社会に毒された歩行者をいざなってくれるからではないだろうか。
このように生活感に溢れた場所も車社会を生きている人間にとっては貴重に思えてくる。
まちの床屋さん。散髪は歩いて行こう。
建物の間に挟まれたかたちで建っている小さな神社。
「とき寿司」の脇から・・・
ぐぐっと入る小道が私的に小木町ベスト細道だ。
この空気感。たまりません。
途中近所の子供たちの集団がガス銃片手に飛び出して来た。サバイバルゲームに興じる町の小さなギャングたちを尻目に私は細道に夢中になっていた。彼らに取っては何の変哲もない生活の場が私には貴重な場所に見える。未来に残したい遺産とも言える場所が現在も生活の場であり続けていることのありがたさ。彼らが大人になってもこの場所を大切に思う気持ちを忘れないでほしい。
それにしても私はどうしてこんなにこういうところが好きなのか。自分でもこれは一種のフェチなんじゃないかと思ってきた。
しかし、たまりません。
小道を抜けると別の通りに出た。この通りには有名な店がいくつかあるので紹介しよう。
魚晴(うおはる)さん。一階部分が魚屋さん、二階部分が食堂になっている。新鮮な魚介類が食べられる。
魚晴:http://tabelog.com/niigata/A1501/A150103/15000974/
その向かいにあるお店は、鮮魚・仕出しの川嶋屋さん。ホームページで海産物のネット販売も行っているようだ。
川嶋屋:http://www7.ocn.ne.jp/~sado-kaw/
川嶋屋の隣にあるのが生そば屋の七右衛門さん。一杯500円の生そばは絶品で典型的な佐渡の蕎麦を味わえる。私は以前来店した際には三杯食べてしまったことがある。
七右衛門:http://r.gnavi.co.jp/ewp22gbg0000/
その隣が酒屋の高野屋さん。明るい雰囲気のお店なのでついつい足を運びたくなってしまう。
さらに細道ハンティングは続く…。
最期に忘れては行けないお店がここ、久治郎屋さん。
久治郎屋さんでは、極上の「あごだし」用のあご(トビウオ)が手に入る。
町の外れに城山公園という公園があった。急な坂道を登って行くとだだっ広い芝生の平地が広がっていた。
キャッチボールとかに最適。桜が植えてあるようだったから春はここで花見もできる。
さて、いかがだっただろうか小木町。
なんとも不思議な魅力に溢れた歩行空間がそこには存在していた。まだまだ紹介できていないスポットはもちろん山ほどある。「佐渡の歩行者」としてこれからも小木町については定期的にレポートして行きたい。
同じ小木の宿根木地区についても歩行者の観点からまたいずれレポートしたいと思う。
地方に住んでる皆さん、休日は車でショッピングモールに行くのも良いけれど、たまには車を降りて地元の町をしなしなと歩いてみませんか?
スポット情報
ライター 北 三百輝(きた さんびゃっき)
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