この記事のライター 北 三百輝(きた さんびゃっき)
3月29日午後1時半から佐渡市立中央図書館で行われたブック・プレゼンテーションに参加してきた。
主催は「図書館で佐渡を元気にする会」。佐渡市が島内の市立図書館の縮小方針を明らかにした2013年2月ころより活動を開始した市民団体で、縮小方針に反対のスタンスで市に対して住民説明会の開催を要求するなど地道な活動を続けている。会員数は現在約30名。元教員、主婦、会社員、公務員、福祉団体職員などさまざまなバックグランドを持った会員で構成されている。
午後1時ごろ、図書館の2階にある講堂に行くとすでに会場の設営は整っており、関係者の方々が事前打ち合わせを行っていた。入口の受付の人からパンフレットを数枚いただく。300円の入場料を払って講堂内へ。
講堂は大きく3つに区分けされていて、前方奥の角に演台が設置されており、それを取り囲むようにして観客用のパイプ椅子が並べてある。その後方にテーブルがあり、お茶やジュースなどの飲み物とお菓子が置いてある。さらに演台から見て左手の一角にはなぜか御座敷が。子供たちの遊ぶスペースなのだろうか。
さて席について開演時間を待つ。ぞくぞくと人が入って来た。気づけば満席状態。老若男女、子供からお年寄りまで様々な年齢層の来乗客が席を埋めている。島の世間は狭い。中には知った顔がちらほら。
定刻となり最初に演台に立った人が開会を告げた。岡山県出身で佐渡で牧師をやっている三村さんだ。それからこのブック・プレゼンテーションの全体進行を取り仕切る本間さんから「図書館で佐渡を元気にする会」の活動について簡単な説明があった。
挨拶が終わるといよいよブック・プレゼンテーションが始まった。まずは第一幕。プレゼンターと紹介図書は以下の通り。
- 村田圭 さん (佐渡市 小学校教諭)/ 家入一真『もっと自由に働きたい』、高橋歩『FREEDOM』
- あおう さん (愛知県出身)/ ルース・クラウス『はなをくんくん』、エリサ・クレヴェン『おひさまパン』、藪内正幸ほか『鳥のなき声ずかん』
- さわらび与一 さん(佐渡市赤泊)/ 茨木のり子『歳月』
人生の帰路に立ったときに行き先を指し示してくれた本、寒い季節に身も心も冷えきってしまったとき、温めてくれた詩の紹介など熱のこもった本のプレゼンが行われた。第一幕が終了すると司会の本間さんが休憩を告げた。
司会の本間さんは、常に忙しそうに動いていたので今回は話を聞くことはできなかった。
休憩時間には御座敷のほうで本の読みきかせなどが並行して行われる。なるほど御座敷はこのためのスペースだったのか。
私はお茶を飲みたかったので後方のテーブルへと向かった。近くに立っていた年配のスーツ姿の男性に話しかけてみた。「図書館で佐渡を元気にする会」代表の中村保彦さんだ。
―佐渡市は図書館の縮小方針を打ち立てたんですか?
中村代表:いや、今のところは現状維持と言ってもらえてます。でも最近は読書離れが進んでいるでしょう。それに加えて佐渡市の人口が年々減って来ている。さらに佐渡市が2004年の合併以来発行している合併特例債の発行期限がもうすぐ切れる。そうなれば今後財源の確保が難しくなるわけで、そうなると縮小の話も勢いづいてくるでしょう。我々はそういった流れをなんとかしたいと思ってるんです。
—縮小というと例えばどんな縮小案が検討されているのですか?
中村代表:色々な案が検討されていますが、一番有力なのは金井の中央図書館一つだけを残して、他の地域の図書館は全部無くしてしまうというものがあります。
—なるほど。例えばその縮小案が採用されるとどんな問題が起こってくるとお考えですか?
中村代表:もし図書館が金井だけになってしまえば、それ以外の地域は大変な不便を強いられます。現役世代は車で移動できても、年寄りや高校生以下の子供たちはそういうわけにはいかない。徒歩もしくは自転車で行ける距離の図書館が無くなってしまえば彼らは図書館に行きにくくなる。そういう事態にはなってほしくないのです。
なるほど、それで本の素晴らしさを伝えるためのブック・プレゼンテーション、ということなのか。それから学生のプレゼンターも複数来ているようだがそれも交通弱者から図書館を取り上げてしまう問題と関係しているのかもしれない。第2幕の開演も近づいて来たので温かいお茶を片手に席へ戻る。
さて席に戻ると前列に学生服の若者が座っていたので話をしてみた。彼は学生プレゼンターのYS11さんだった。小木町出身の佐渡高校1年生で小説をよく読むのだという。このブック・プレゼンテーションに参加することになったきっかけは高校の先生と図書館司書の人からの勧めがあったことなのだという。プレゼンの原稿も書かずに全て頭の中で話す内容を組み立てているので上手くいくかどうかわからないと笑う。
そして第2幕。主なプレゼンターと紹介図書は以下の通り。
- さいとうあかり さん / アルフ・プリョイセン『スプーンおばさん小さくなる』
- ローズ さん / 岡田貴久子『ハサミの魔術師とホシノツカイ』
- YS11 さん(佐渡高校)/ 池井戸潤『下町ロケット』
- 好 さん(佐渡高校演劇部)/ 有川浩『クジラの彼』
YS11さん、上手くプレゼンできてました。お疲れ様。再び休憩時間に。御座敷では「茶・栗・柿」という民話が演じられる。
そして第3幕が開始された。主なプレゼンターと紹介図書は以下の通り。
- ふーじー さん(佐渡市泉)/ 横山泰行『ドラえもんのことば』
- ばたやん さん / Gever Tulley『子どもが体験すべき50の危険なこと』
- しんぐ さん / 斎藤勇『心理学ビギナーズトピックス100』
- あおちゃん さん / メアリー・アン・シェイファー『ガーンジー島の読書会』
- ゴンちゃん さん(福島サポートネット佐渡)/ 小沢昭一『日本の放浪芸』
- 土屋タカ さん / 山田純大『命のビザを繋いだ男 小辻節三とユダヤ難民』
途中休憩が入り、御座敷では「のこぎり演奏」が行われた。
最期に「図書館で佐渡を元気にする会」代表の中村保彦さんが演台に立ち閉会の挨拶をした。
本の素晴らしさ、そして本を通じて人と出会うことの楽しさを感じてもらうことがこのブック・プレゼンテーションの目的だと中村代表は語る。(実はここだけの話、私はこのとき始めて中村さんがこの会の代表だったことを知る。どうりでみんな彼に一目置くようなしぐさをしていたわけだ。立ち話をしておいて良かった〜。)
さていかがだっただろうか。佐渡にも読書会のようなことをやっている団体が存在していた。しかも興味深いことに、単なるブック・プレゼンテーションというよりは、行政に働きかける市民運動の一環としてのブック・プレゼンテーションの姿がそこにはあった。地域の図書館を守ろうとする情熱に私は共感した。そしてプレゼンターの方々の多様な経歴にも関心した。いろんなことをやってる人がいるんだな~。
ところで住民説明会を市に要求することのデメリットとして、「説明会開催済み」という既成事実を行政側に与えてしまうことが挙げられるというある会員さんの話が印象的だった。市民運動のジレンマのようなものと戦いながらも本の素晴らしさを伝える活動を続ける彼らのひたむきさに敬意を表したい。
佐渡市中央図書館
- 〒952-1209 佐渡市千種177-1
- TEL:0259-63-2800
- 休館日:月曜日
- 開館時間:午前9時~午後6時(土・日は午後5時まで)
- http://www.city.sado.niigata.jp/~lib/
ライター 北 三百輝(きた さんびゃっき)
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