「あの味が忘れられなくて・・・」幻のもち米を現代に。江口だんごの大正餅復活プロジェクト

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「コシヒカリ」や「あきたこまち」、「つや姫」などお米にはさまざまな品種があります。それと同じように、もち米にも品種があることをご存知ですか?もちろん、お米と同様にもち米も品種によって味が違います。現在、新潟県では「こがねもち」という品種が栽培されています。「こがねもち」が誕生したのは1956年(昭和31年)と、今から半世紀以上前です。古い品種ですが、今も最高峰のもち米と呼ばれるほどの評価を得ています。

地域住民の記憶に残り続けた「幻のもち米」

そんな「こがねもち」が新潟県に広がりはじめた昭和30年代に、姿を消していったもち米がありました。それが「大正餅」です。

大正餅は、こがねもちに比べ、背が高いため倒れやすく、収穫時期が遅く、そして収量も少ないという、育成に手間がかかりすぎる品種でした。稲作の機械化・合理化が進んでいた時代です。栽培効率の悪い大正餅は次第にその姿を消していきました。

しかし、その味は地域住民の記憶に残り続けていました。
「『こがねもち』より美味しい餅があったんだて」
大正餅を食べたことがある人は口を揃えてそう言ったのです。

明治35年に創業した新潟県長岡市の和菓子屋「江口だんご」が、そんな「幻のもち米」を現代に蘇らせました。

和菓子職人を唸らせた味!あの味を探して…

大正餅の復活は江口だんごの三代目の江口賢司さん、四代目の江口太郎さんの親子二代の悲願でした。

すでに大正餅の姿を見ることがなくなっていた昭和40年代に、三代目賢司さんが奥さんの実家に訪れた際に出された草餅の美味しさに驚いたことがあったそうです。和菓子職人が、普通の農家が作った草餅に「自分の作ったものより美味い!」と衝撃を受けたと言います。後から聞いたところそれが大正餅で作った草餅だったと知りました。

四代目の太郎さんは、父である三代目から事あるごとにそのエピソードを聞いていたそうです。「父以外にも、お店に笹団子を作りに来てくれるおばあちゃんたちも皆“大正餅は美味しかった”と言っていました。ずっとずっと食べてみたいと思っていました」と、四代目の太郎さん。いつか大正餅の復活させたいと想いを巡らせていました。

きめが細かく、伸びが良い。そしてほどよいコシが特徴の大正餅。どこかでまだ作られていないのか?長い間、探していたもののなかなか見つけることができませんでした。

残された一握りの「種もみ」から。5年をかけた復活プロジェクト

復活を諦めかけていたある日のこと、長岡市宮本にある農家に「大正餅の種もみがある」との情報が飛び込みました。そこには、わずか手に一杯ほどの種もみが残っていたのです。種もみを探し始めてから10年。2001年のことでした。

早速、幻のもち米を生産しようと、農事組合法人「ナルミ農産」と手を組み、栽培を開始。たった2列から始まった復活プロジェクトは、まず種を増やすことから着手しました。

見つけた当時、大正餅の種もみは「こがねもち」の種もみと混在しており、植えてみないことには区別がつかない状態でした。そのため、まずは田植えをし、収穫期が来るのを待ちました。大正餅はこがねもちに比べ収穫時期が遅いため、先に黄色く色付いたこがねもちを刈り取ります。そして、残った大正餅を収穫しようとしたのです。しかし、こがねもちに比べて20~30cm背が高い大正餅は、穂の重さに耐えられず倒穂してしまい、1本1本支えを施す必要がありました。

「育成に手間がかかりすぎる」ために、姿を消したという幻のもち米の栽培は苦労の連続。ナルミ農産と、創意工夫を重ね、収穫できたものの中から質の良いものだけを選んで、また一年育てを繰り返し、5年経った2005年。ようやく大正餅の復活!商品化にたどり着いたのです。

復活は地域の人たちとともに

大正餅を使った商品が完成した2005年は、江口だんごが幻のもち米と同じく夢見ていた「古民家の復活」を成し遂げた、江口だんご総本店が開店した年でもあります。この古民家再生の店のオープンに華を添えた大正餅を使った商品は「むかしぼたもち」。おばあちゃんが手作りのような昔ながらの手作りをコンセプトに懐かしの味を蘇らせました。

商品化の裏にはもう一つのエピソードがあります。

それは、お客さんを巻き込んで「大正餅復活プロジェクト」を進めたことでした。初めて商品化された2005年産の大正餅から、一般の方にももち米づくりに参加してもらうことにしたのです。

もち米づくりに関わってもらうことで、手作りの大変さや、面白さ、そして一緒に取り組むことで、一緒に感動する。そんな経験をしてもらおうという想いが込められていました。大正餅復活プロジェクトは2016年度には第12期を迎え、関わる人の輪を拡げ続けています。

県外からもファンが来る!大正餅ファン拡大中です。

そんな想いがたくさん詰まった大正餅は、現在「むかしぼたもち」と、切り餅「杵つき大正餅」、そして「生クリーム大福」として江口だんごで販売されています。収穫量に限りがあるため、10月に収穫したものが、早いときには翌夏には売り切れとなってしまうほどの人気商品となっています。平成28年度収穫の大正餅(切餅)はまもなく終了とのこと!

今後は、「作付面積を増やし、大正餅100%の笹団子を作りたいんです」と四代目の江口太郎さん。昔から親しまれてきた品種を残し、次世代につなげていきたいと語ってくれました。古き良きものを守り続ける江口だんごさん。長岡市宮本の総本店の美しい里山風景を楽しみながら、絶品の和菓子を楽しみに訪れてみてはいかがでしょうか?

お店情報

江口だんご本店

  • 住所:新潟県長岡市宮本東方町52−1
  • TEL:0258-47-4105
  • FAX:0258-47-4100
  • URL:http://www.e-dango.com/

この記事のライター:唐澤 頼充(ライター・編集者)

 

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※本記事の内容は取材・投稿時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報につきましては直接取材先へご確認ください。