ライター 北 三百輝(きた さんびゃっき)
新潟市北区と聖籠町にまたがる日本海側唯一の中核国際港湾、新潟東港。
その周辺には外国人コミュニティが存在する。全3回に渡り、新潟に根付く外国文化にスポットライトを当てレポートをしてみた。
第1回:新潟東港の外国文化レポその①「東港周辺を歩く」
第2回:新潟東港の外国文化レポその③「外国人だらけのカレー屋『ナイル』」
カレー屋ナイルを出て、グーグルマップでナビをしてもらいイスラム教のモスクを目指す。案内のまま進むと、太郎代のとある会社の敷地内に案内された。
うん?ここにはモスクらしいものがないぞ?
近くの空き地に車を止めて徒歩でウロウロしてみると坂を上がったところにようやくそれらしい緑色の看板を発見。「イスラミックセンター新潟」という標記。ここに違いない。
敷地内に入ると礼拝の声が聞こえて来た。ちょうどお昼どきだったので昼の礼拝中らしい。と思ったら数人が建物から出て来た。もしかして礼拝がちょうど終わったところなのかも知れない。入口から出て来た高校生くらいの若者に話しかけてみた。
―こんにちは。礼拝終わっちゃいました?
若者:???
まずい完全アウェーな状況だ。どこかの外国の片田舎に迷い込んでしまったかのような状況。
しかしめげずにもう一度。今度は別の若者に聞いてみた。ところがその若者、片言の日本語で日本語は分からないと言って来た。
しようがないので最初の若者にもう一度話しかけてみた。
若者:はい、今終わったところです。
おお、ちゃんと通じた。
中に入ってもいいですか?と聞くと肯定も否定もしない感じで薄ら笑いを浮かべていたのでまあいいかということで玄関に突入。(しかしパキスタンの若者、みなかなりのイケメンだった。おそろしや)
玄関には靴がぎっしり。どんだけ人が入ってるのだ。
何だか体が震えて来た。恐る恐る玄関で靴を脱いで中に入ってみる。ひと際体格の大きな中年の眼鏡の男がこちらに視線を向けて来た。私は日本式の会釈でどうもどうも、といった感じで低姿勢を意識しながら廊下を突き進んだ。意外とこれで上手く行くものだ。自信を持って行こう、ここは日本だ。
廊下の先にまた扉があり、扉の向こうの大広間に人が大勢集まってイスラム式の礼拝を行っているのが見えた。私が入ろうとすると先ほどの眼鏡の男が止めに入った。ちゃんとした日本語だった。
代表の男:「今はまだ礼拝中だから、終わってからにして。私はここの代表をやってるものだ。何か質問があれば後で聞いてもらって構わない」
そういうことなので大広間に上がるのはやめて、廊下の隅に突っ立って様子を伺うことにした。礼拝を終えたイスラム教徒(ほとんどみなパキスタン系と思われる)たちがぞくぞくと大広間から廊下のほうへ出て来た。
見慣れない日本人が立ち尽くしているのを少し驚いたようにして玄関の方へ向かって歩いて行く。私は目が合った人には会釈とともにアッサラーム・アライクムと言うようにした。すると向こうから握手を求めてくる人もいた。隣には代表の男が立っていて彼に対してはほぼ全員が握手をしていたので、私との握手はそのついでだったと思うが、初対面の人に対しても握手をするという文化は素晴らしいと思った。
いや~、それにしてもすごい数のパキスタン人だ!「何ここ、本当に新潟?」と自分の目を疑いたくなる。よく見ると帰り際にみな代表の男にお札を渡していた。寄付か何かだろうか。
突っ立ってるのも疲れたので廊下脇に置いてあった長椅子に腰をかけて待つことにした。すると中学生くらいの若い男の子が隣に座ったので話しかけてみた。と言っても日本語が分からないような雰囲気だったので英語で。
―How old are you?
男の子:Fine.
FineとFiveと聞き間違えした私はとても5歳には見えないという意味を込めてFive?と聞き直した。そのやりとりを聞いていた別の若い男の子たちがやってきてウルドゥー語らしき言葉で、How old are youってこの人は聞いてるんだよ~っと言っているようだった。
それで私が質問をした男の子は勘違いに気づいたようで「Fourteen」と改めて答えてくれた。中学生の仲間たちの中には日本語ペラペラの子も、日本語が全く分からない子もいた。私が話しかけた子は日本語は全く分からないパキスタン生まれのパキスタン人だった。日本語ペラペラの子は母親が日本人で生まれた国は日本だということだ。
そうやって盛り上がっていると代表の男がウルドゥー語で何やら注意してきた。ちょっと騒がしくしてしまっていたらしい。
礼拝する人もほとんどいなくなったので扉を開けて中に入ってみた。床は絨毯になっていて前方にちょっと窪んだ間取りの小部屋があった。
大広間にはまだ若干名人が残っていて仲間内で何やら話をしていた。私が一人で大広間の隅で立って様子を眺めていると、残って話し込んでいたグループの中から1人が近寄って来て興味深い質問を日本語でしてきた。
男:あなたはどこから来たんですか?え?新潟市西区?何やってる人ですか?警察の人?それとも司法省の人?
私は「自分は単なる会社員、民間人ですよ~」とおどけて両手を挙げると男は安心したようにして去って行った。
すげー猜疑心向けられてるんですけど!まあ無理も無いか。私もビクビクなら向こうも同じようにビクビクだったに違いない。
次に私に話しかけてきた男は結構話し好きのあんちゃんだった。しかもこちらの日本語をほぼ完璧に理解出来る人だったのでありがたかった。というわけで甘えていろいろ聞いてみた。
―皆さん、パキスタンのかたなんですか?
あんちゃん:だいたいそうです。あとはインド人、マレーシア人、スリランカ人、ロシア人のイスラム教徒もいますよ。
―皆さん、だいたいこの辺に住んでいるかたがたなんですか?
あんちゃん:この辺に限らず新潟市周辺あちこちから来てます。ちなみにここの代表は亀田に住んでます。
―なるほど。しかしこの辺、東港周辺は特にパキスタン人多いですね。どうしてなんですか?
あんちゃん:ロシア航路があるでしょ。それで中古車の輸出関連でパキスタン人が集まってるんです。
―うーん、ロシア航路があって中古車の輸出で、ロシア人がたくさん来るのは分かるけど、どうしてパキスタン人が来るのかよくわからないのですが。
あんちゃん:中古車ビジネスはパキスタン人の生業なんです。パキスタン人のネットワークで日本全国でやってます。でも日本の中でもここ新潟の東港に一番集まって来てるんです。それはやっぱりロシア航路の関係上、中古車ビジネスはここ東港が一番やりやすいからなんです。
―東港に日本全国から集まってるんですか?すごいですね。例えば東京のパキスタン人コミュニティとの交流とかも頻繁になされているんですか?
あんちゃん:もちろんです。しかし東京だけじゃありません。パキスタン人のネットワークはワールドワイドなものです。イスラム教徒なら皆兄弟、家族ですから助け合いの輪は世界規模でなされています。
あんちゃん、いろいろ情報ありがとう。
しばらくして代表の男がやってきた。なんだか分からないが記念撮影をするということになって私もその中に加えてもらった。お礼に私も撮影を買って出る。
何やら今日は礼拝の指導をしていた人がパキスタンに一時帰国する前のお別れの日だったらしい。そのあと代表は話を聞いてくれるということで大広間の一角に腰を下ろした。私はこのモスクのことが前から気になっていたこと、にいがたレポで記事を書いていることなどを話した。それを聞くと代表は「ぜひ記事を書いてくれ」と言ってくれた。
それからイスラム教のコーランを数冊見せてもらった。ウルドゥー語の解説付きのものもあった。私は大学時代にアラビア語をちょっとかじったことがあってコーランの第1章だけは暗唱することができた。それを披露すると代表の男はなかなか上手いといって褒めてくれた。
代表の男の名はKhan Malik。新潟大学法学部で博士号を取ったというインテリだ。彼の話では今はプレハブ小屋のモスクだが、将来的には同じ敷地内に立派な構造のモスクを建てる計画なのだという。それで皆さん帰り際にお金を寄付してたんだ。
—日本語ができる人とできない人がいるようですが。
Malikさん:日本人の奥さんと結婚して定住している人は日本語が上手い。中には一度日本人と結婚したが残念ながら離婚してパキスタンに一時帰国し、母国で再婚してから家族そろって日本に再入国している人もいる。そういう場合その家族は全く日本語ができない状態なのだ。しかしビザが切れてオーバーステイ状態の人間は我々の中には一人もいないから安心してくれ。
ははあ、なるほど。それはそうとこのMalikさん、さっきカレー屋の「ナイル」に客として入っていたらしい。ああ、そう言えばいたな~とお互い今頃気づく。Malikさん、「あんちゃん」、他にも親切に話しかけてくれたイスラム教徒の皆さん、今日は本当にありがとうございました。お礼を言ってモスクを後にした。
さて、東港周辺の外国文化突撃レポ、とりあえず第一弾はこの辺で終わらせておく。
帰り際にロシア人が多く買い物に来ると言われている聖籠町のプラント4に寄ってみたがそれらしき客は一人も見なかった。おかしいな。数年前訪れた際には結構いたはずなんだけどな。井浦商店の店主が言ってたように関税引き上げの関係で相当数が帰国してしまったのだろうか。
というわけで今回はロシア人と接触することができなかった。次回はぜひロシア・コミュニティに潜入してみたい。
第1回:新潟東港の外国文化レポその①「東港周辺を歩く」
第2回:新潟東港の外国文化レポその③「外国人だらけのカレー屋『ナイル』」
スポット情報
新潟モスク
- 新潟市北区太郎代2557-1
- TEL/FAX 025-255-3567
ライター 北 三百輝(きた さんびゃっき)
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