この記事のライター 池ト ヒロクニ(大学生)
この記事は、【インタビュー】「ママの心を元気にしたい」子育て応援施設 ドリームハウスの設立者にいろんな話を聞いてきた【前編】からの続きです
場を完璧にしないからこそ生まれる、各自の主体性
―― ドリームハウスの場づくりとして意識しているところはありますか。
新保さん(以下敬省略):スタッフみんなで言っているのは、なにかやりたいって方がいたら、それを「いいです」って断らないこと。ママたちはここを自分の居場所だと思っているので、ときにはなにかを自主的に「自分がやります」って言ってくれる方もやっぱりいらっしゃる。たとえばお皿洗いとか。ママたちは休んで心が元気になると次の段階として、何か自分ができることがあるだろうかになってくる。
だからたとえばお皿洗いとかでも、ここは「ああー!ありがとう!」「わー!うれしいー!助かりますー!」ですよ(笑)。子育てが大変だったころは「自分なんていてもいなくても世の中何も変わらない」って私なんて思ってたからね(笑)。そういう気持ちから、休めたあとのその一歩って大きいなあって私は思うの。でも一人きりにしないでもちろん寄り添って一緒にやったりして。スタッフの方もみんなそういう子育てを経験している当事者の方たちなので、みんながそう言えば「そうですね!」ってなる。そういう気持ちは、すごく大事にしてる。あと意識してることは・・・、場を完璧にしない(笑)。
―― 完璧にしない。どういうことですか。
新保:たとえば七夕の笹。これねドリームハウスとして準備したことはないです(笑)。行事とかって、ほかの幼稚園とか子育て支援センターだと、整えられてるところにお母さんがお客さんとして参加するのがふつうだと思うんですけど、ここはなにもしない(笑)。そうしてても、毎年必ず笹持ってきてくれる人がいる(笑)。
―― 場づくりに一緒に関わってくれるのはうれしいですね!
新保:そう。おもむろに笹持っている人が入ってきたら「あーりーがーとーー!!」って。このなんていうの、「うはーー!」っていう喜びが・・・、いいの(笑)。それがいいでしょ!?それがおもしろいとこでしょ。おもしろいってそういうところじゃない?昨日も笹があるから持ってきていいか聞かれて、「きたーーー!!!」って(笑)。近所のおじちゃんが「笹だー」ってぼんって持ってくる。頼んだわけでもなく(笑)。
―― 運営側ですべて完璧に作らずに、各自が活躍できる隙間を残しておく。
新保:そうですね。あとはスタッフのコーディネーター的なところだと思うんですけどね。この笹も「いやー昨日なになにさんが持ってきてねー」って言うことは意識してる。あたしが普段そういうの言ってるから、スタッフもたぶん言ってくれると思うんですけど。
―― みなさんが自主的に場づくりに参加してくれるんですね。逆に、新保さんは何をしているんでしょうか(笑)。
新保:なにもしないのが基本ですね(笑)。唯一してるとすれば「すごーい!」とか言ってる。「ありがとー!」とか喜ぶ。喜んでるだけですね。
平らな関係から生まれる、ありがとうのぐるぐる
―― ドリームハウスの特長はやっぱりみんなで作り上げてるところだと思います。それぞれの明確な役割があるわけじゃなく、垣根があまりない。そこは意識していますか。
新保:無意識に意識してる感じかもしれないね。なんかね、したいからしてるの。私は、いわゆる一般的な概念のリーダー像ってあるじゃないですか、そういうリーダーではない。だから、私が私らしくいたいと思っていたので、わたしはみんなを引っ張っていくというよりも、みんなのなかの一人でいい。そんな平らな関係というか、利用者もスタッフもわかんないでしょここ来ると。
―― そうですね。わからないです。しかも、前の日は利用者側だった方が次の日にはスタッフになったりとか。
新保:そうですよねー!(笑)。その逆もねー!そうなんです。なのでわたしもなんにも言わなかったらわたしが代表なんてたぶん誰もわからない。基本がフラットであって、そこでみんなの個性が自然に湧き出てくるという雰囲気を、自然にできてるかなーって思うんですよね。あとここはね、ありがとうが“ぐるぐる”するんです。みんなが「ありがとう」って自然にお互いさまで言ってて、それが支援者と支援される側の一方的な関係ではなく、ぐるぐると循環してる雰囲気ですね。心からのありがとうを、言ってもらうし、そしてまたたくさん言っている気がする。それが幸せのありがとうなの。お互い様だから。その感じが福祉の世界にも必要なんだと思うんです。
―― いまの福祉施設は一方的な関係ですもんね。
新保:そう。障がい者の施設とか、介護の施設とか・・・。わたしも関わらせていただいているんですけど、どこか一方的な感じがしてて。
―― 一方的にサービスをする側と受ける側に分けるんじゃなく、お互い支え合っていく。
新保:そうなんですよ。逆なくらいがいいと思う(笑)。いわゆる困っていると思われている当事者の方が、人のためにやりたくてワクワクしてやったりして、それに「すごいねー」とか「ありがとう」とかって周りの人がいう環境ですね。そうして当事者の方がいきいきしてくる。それがわたしは理想的な気がします。あと、「ひとりから」っていうのは、それこそ何か意識して来た部分ですね。
―― ひとりから・・・。
新保:ひとりから。ここを始めるときも自分がひとりからだったから。育児中って、座ってなにか書いていても子どもが「うわー!」って来てなんにも書くこともできないし、テレビとかゆっくり観たり、お茶を飲む暇もない、お金もない、ないない尽くしで。自分自身がつらいからこそ、その状況を変えるんだって強く決意したんですよね。そう自分が何より経験して感じているので、すべては一人からって思うんですよね。その一人の想い、実現力の強さはすごいって信じてるので、ここの場がゼロであっていい、こちらから動きを促さなくてもいいと思っているのもそこなんだよね。
ここがゼロであっても、なにかの夢をもっている人が来たとして、その人がどんな力を秘めているのかっていうのを私はもうわかってるというか、中身はもちろん人それぞれだけど、絶対に何かきらきらしてくるから(笑)。だからただ黙って、何もせずに平らでいようって感じ。一人の力を知ってるからね。
―― ここの場は一人の力を信じてを背中を押す。
新保:そうですね。お互いに押し合って。いま私が知ってるって言ったけど、みんなも知ってるんだよね。ここに来て、一人の力を信じてもらったから信じれる人になって、そういう人がまた人を引き寄せて、もうバームクーヘンみたいに(笑)。どんどんまわりにも波及していくような感じ。そこでもやっぱりさっき言った支援関係の既存施設は、個々の力を「信じていない」から始まるんだと思う。
―― 「できないでしょ」ってとこから。
新保:たとえばお年寄り対してなになにさんこれが今できないから、支援者みんなで相談して「ここを目標にこの人をそこまで持っていきましょう」っていうのが今の福祉だと思います。でもここは違うんですね。「会えてよかった」「うれしいー」「夢聞かせてー」(笑)。もうそれだけで素晴らしい。信じてないと、信じてるかの違い。だから利用者の方も、「ああ来てよかった」って思う。そこだよね。
―― 自分が安心できるところにいたいですよね。たとえば学校とかでも、ひとくくりにされて窮屈な思いをしている子どもたちがきっといると思うんです。でも一度でも自分が自分の信じたことやれるって気づいたらその子たちはすごく変わるんだろうなって思います。
新保:むかし小学生の子供も来てました。毎日100円かかるので、100円玉とトースト、パン一切れもって、夏休みに小学校六年生の子がけっこう遠くから歩いてね。学校ではそれこそ信じてもらえずに、なにかをされるばっかりね。だけどここに来ると、自分たちに歳が近いから子供たちからは「うわー!お姉ちゃん!」って自然に慕われて、ママたちも「ありがとねー」「たすーかるー」って言ってさ。もう子どもたちにとってそんなことなんて普段ないわけですよね。それで、うれしくてうれしくて100円玉握りしめて、パンもってここでチーンって焼くんですけど(笑)。その子は夏休み中ずっと来てました。みんなそうだよね。それはいくつの人であってもそうなんだ。死ぬまで。
―― 自分の力を信じてもらえて、自分が輝ける。
新保:それはすっごい喜び。あとはやっぱり、シンプルなんだけど自分がしてもらって、うれしかったことをほかの人にもする。それで十分だと思うの。
―― ありがとうの「ぐるぐる」ってことですね。
新保:そう。何しようって思っちゃうけど、自分がしてもらってうれしかったことしかできないっていうか・・・だから自分がしてもらって嬉しかった、たった一つのことを。たとえば学校の先生に、「あのときすっごい褒められたなあ」って思い出があったとしたら、そういう褒めてもらって嬉しかったことをほかの人にもする。学生がボランティアで来て、「何したらいいでしょうか」って聞かれたら、それを言ってます。「自分がしてもらって嬉しいことをすればいいんだよー」「嫌だなって思ったことはしない」。一人でぽつーんとしてる人がいたとして、自分だったら寂しいでしょ。だから声かけてもらったらうれしいから声かけようって思うじゃん。
―― 決まった型があるのではなく、その人がどう感じたかっていうところですね。
新保:そうそう。それが支援者が被支援者にじゃなく、人が人に心から何かをしてあげたいと思ってすることだと思います。心からすることだからそれが、伝わるんだよね。いい感じで伝わる。もしその行動がずれていて、ほんとは声かけてもらいたくなかったとしても、その誠意というかなんというか「してあげたいんだ・・・!」って思いは伝わるでしょ。それが大事かなって思っててね。
―― 運営者側からお願いすることはほんとにほとんどないんですね。相手側のやりたいという気持ちをすごく大事にしてる。そういう場ってことが伝わってきます。
新保:あと、「聞く」っていう素晴らしさ。さっき私がここの場には夢を聞く人がいるって言ったじゃないですか。このインタビューもそうだけど、自分のことでも人に聞かれることで初めて気づくことってあるでしょ。なので聞くってことはすごい効果だと思います。
―― 自分の想いを再確認するというか。「自分、ここはこうだったんだ」みたいになると行動しやすくなりますよね。
新保:「そうですよねー!」なんて自分の想いを共感されたら「そうだよねー!」「ああいいんだいいんだ。自分の想いはこれでいいんだ」って(笑)。「すごいですねー」って言われたら、「自分の想いはすごいんだー」ってなって何よりもその人の原動力になるよね。やっぱり私はなんかやりたいなーって思う人の勇気になればいいなと思う。それこそ自分なんて生きてても意味がないとか思ってる人もすっごいたくさんいる。そういう人にこう、私の気持ちが届いたらいいなあって思いますね。
何かできる人が素晴らしいんじゃない。ありのまま、そのままのあなたで十分素晴らしいっていうことを伝えたい。それって、自分だけじゃ思えない。だけど誰かひとり「あなたがいてよかった」っていう想いを伝えてくれたら、もうなんだろう・・・。生きていけるよね。こういう媒体を通してその想いが、多くの方に伝わったらいいなあって思います。
終わりです
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【子育て応援施設 ドリームハウス】
〇住所 〒950-2054 新潟市西区寺尾東3丁目9-30
〇電話番号 025-268-2666
〇開館日 火曜~金曜、第2第4土曜日、第3日曜
〇開館時間 10時~14時
〇入館料(運営協力費) 500円
この記事のライター 池ト ヒロクニ(大学生)
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