静かな創造のまち・柏崎市高柳で出合った「地域アート」の原風景

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※この記事は3月10~12日に柏崎市高柳町で行った“田舎Iターン留学・にいがたイナカレッジ”とのコラボ企画「地域を書く合宿」の参加者が、合宿中に作成した記事です。

新潟県十日町市の「越後妻有大地の芸術祭」や横浜のヨコハマトリエンナーレなど大規模な芸術祭から、商店街レベルのアートワークショップなど、今やアートと地域活性化・地域づくりを掛け合わせた取り組みは日本全国で行われています。今回ご紹介するのもその一つ。あるNPO法人が地域に入り込み、まちづくりに取り組んでいるのですがここが特に面白いのはそれを山奥の小さなまちでおこなっているところ。アートを展開する場所としてわざわざ山深い地域を選んだ理由とは? この地だからこその表現とはいったい何なのでしょうか。

高柳の荻ノ島集落。どこか昔懐かしい景色がひろがる

「まちづくり」の先進地・高柳地域

新潟県中越地方の港まち柏崎市から車を走らせおよそ1時間、深い山あいの中に今回の舞台である高柳地域は現れます。高柳は周囲の山々から支流を集めた鯖石川をほぼ中心に、それを囲むようにして19の集落が点在しています。冬には数メートルもの降雪があり、その深雪と鯖石川の恵みによって色彩豊かな山里の原風景が広がる高柳ですが、今から30年ほど前、新潟県内で最も深刻な過疎化先進地域と評価された過去があります。「高柳がなくなる」危機感を抱いた住民たちは当時、まだまだ重要視されていなかった「住民による地域づくり」にいち早く取り組んで、高柳を未来へつなぐために「高柳らしさ」や地域性を見つめなおし、この地ならではの文化の涵養に取り組んできました。今でこそそこの地域性を活かしたアートによるまちづくりは全国各地で行われていますが、ここ高柳では30年も前から地域の文化を大切にした創作活動を脈々と続けていたこともあり、今ではその考えがすっかり住民一人ひとりに浸透しています。過疎の先端を行く地域だったからこそ、地域らしさとその発現に取り組むまちづくりのパイオニアとなっていたのです。

ギャラリーグルグルハウス高柳の中で私たちを出迎えてくれた今井さん

 アートを軸にまちを捉える「NPO法人グルグルハウス高柳」

「よく来たね。こんなところまで」

今回お話を伺うNPO法人グルグルハウス高柳の今井さんが笑って私たちを出迎えてくれました。同法人は2007年から高柳のメインストリート(高柳銀座と呼ばれる)でいくつかのギャラリーやアーティストインレジデンスなどのアートスペースを運営しながら、アートをテーマに地域住民と観光者との交流促進や、もともとこの地にある地域資源の活性化を通して、高柳のまちづくりに取り組んでいます。

ギャラリー「狐の館」の内部

「歩いていけるすぐそこにギャラリーがあるから、とりあえずそこに行ってみようか」

あいさつ代わりにまず案内されたのは、元々バスの待合所だった建物をリノベーションしたギャラリー【狐の館】。ここでは数十年前から高柳で続く創作活動の痕跡が展示されています。「狐の夜祭り」というお祭りがこの地にはありますが、例年そのポスターを制作していたのが芸術家・古川通泰(1940~2009)。彼が遺した祭りのポスターや、祭りの様子を描いた屏風絵など数十点の作品を展示しています。階段を上がった二階には狐の夜祭りの経緯・歴史についても展示されています。このお祭りの特徴的なところは、20年前に「何か面白いことをやりたい」と組織された高柳の住民グループによってつくられた、手作りのお祭りだということ。

狐の夜祭りと芸術家によって描かれたそのポスターとの出会いは今井さんにとって、高柳に息づく「自分たちで何かを作り出す」という自主的な創作意識を感じとった印象的な出来事でした。

ギャラリーグルグルハウス高柳の前で同NPO法人のお二人(両端)と、よくお手伝いに来る地域の若者(中央)

狐の館から歩いて30秒。目と鼻の先にあるのはNPO法人の名を冠するギャラリー【グルグルハウス高柳】。ここではおおよそ一カ月単位で、今井さんが一目置くアーティストを招聘して企画展を行っています。また同じ施設内には地域の人が集まれるコミュニティカフェがあったり、定期的にこどもを対象としたワークショップも開かれたりするなど、NPO法人グルグルハウスが手がける一連のアートプロジェクトの中核的スペースとなっています。

偶然の出会いも今は必然だったと思っている

そんな今井さんはなぜわざわざこの山奥にある高柳集落でアートプロジェクトを起こそうと思ったのでしょうか。

「会社員時代からいずれは自然の中でアートに専念したい思いはあった。高柳に出会ったのは知人から一緒に高柳でギャラリーをしないかと誘われたからです」

「人と場所という素材を活かして私なりの創作活動をするだけ。具体的な場所に特別こだわりはありませんでした」

結果的には友達に誘われたことから、縁を感じて高柳へやってきた今井さん。高柳が選ばれたのは言わば偶然でしたが、7年間活動する中でこの地にやってきたのはむしろ必然だったのかもしれないと振り返ります。

「ここに暮らして気付いたことだけど、ピュアな感覚で創作活動をするのに、雪深い冬から芽吹きの春に季節が移ろう感じや、農業を通して作物を育てることに共通する『湧き出る感覚』というのはとても大切。雪国の厳しい自然も自分にとって本当に大切なものは何なのかを問いかけてくれて、余計なものが削ぎ落とされました。創作の現場を求めていた7年前の私にとって高柳に出会ったのはある意味で必然だったのかもしれないですね」

高柳銀座を歩く今井さん。通りの端から端までは10分もあれば歩けてしまう

いつかは高柳銀座をアートの通りに

今井さんのように、日本の原風景ともいえる景色を今に残す高柳に魅力を感じて移住してくる人もいますが、それでもやはり地域全体の人口はゆるやかな減少の一途をたどっています。「このままでは高柳を維持できなくなるかもしれない」と危機感を抱く今井さんは近年より一層、様々なまちづくり活動に意欲的に取り組んでいます。

今井さんに言わせるとそれは、「私は高柳を後世へつなげるために、私なりのこんな切り口(アート)から取り組むがどうだろうか」というまちへの問いかけなのだとか。

そのようなまちへの意思表示を行う中で、まちの人々も徐々にアートスペースの改築などに手を貸すようになってきました。

「自分が自分らしくエネルギーを発揮できる高柳の環境はとてもありがたい。さらにそのエネルギーをみんなが認めてくれるならなおさら、やりがいもあります」。

今井さんなりの意思表示に対して、地域からの確かな感触も得つつあるなかで、今井さんの活動はまちのなかでさらに広がっています。

真っ白に塗られたギャラリー米山のなかから、「あそこはアーティストの宿舎としてつかっているんだ」と説明する今井さん

取材時まさにリノベーションが佳境に差し掛かっていた【ギャラリー米山】は、もともと駄菓子屋だった場所を、アーティストが滞在制作しながら作品発表も行えるという場所へとよみがえらせています。若手アーティストが作品制作に集中でき、さらに作品を人にも見てもらえる場所を目指して、今井さん自ら大工仕事に励んでいます。

5~6メートルはあろうかというギャラリー姫の井「酒の館」高い天井を見上げて、改装の苦労を語ってくれました

玄関前に吊るされた大きな杉玉が目印の【ギャラリー姫の井「酒の館」】は高柳で100年以上の歴史がある酒蔵の倉庫として建物を利用しています。ちょっとした体育館ほどある木造の大空間が取り壊されるかもしれないと聞きつけ、今井さんが管理を引き受けアートスペースとして新たな息吹を吹き込んでいます。音響抜群の空間を活かして楽器の演奏なども行われているそうです。

のどかでオリジナルな「地域アート」の里・高柳

過疎化のトップランナーという苦境をバネに、地域性を活かした文化振興を水が浸み込むようにじっくりと自分たちのペースで行ってきた高柳。その土壌を活かして地域の人たちとアーティストともに地域づくりに取り組むNPO法人グルグルハウス高柳。高柳には最近のひとつの流行でもあり、日本全国で広がる「地域アート」の原風景が広がっているようでした。みなさんもぜひこのアート空間を自分の眼で確かめにいらしてくださいね。

スポット情報
  • ギャラリーグルグルハウス高柳
  • 住所:新潟県柏崎市高柳町岡野町1750
  • E-mail: guruguruhouse.takayanagi@gmail.com
  • ブログ:http://gurutaka.exblog.jp/

ライター:池戸ヒロクニ
NPO法人市民協働ネットワーク長岡所属。1992年年まれ、北海道出身。大学では地球科学と経済思想を専攻。ライフワークのさんぽと写真を大切に日々の生活を送りつつ、「知る・編集する・伝える」をコンセプトに様々な活動を多拠点に展開。

 

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※本記事の内容は取材・投稿時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報につきましては直接取材先へご確認ください。