この記事のライター あらきやすし(会社員・「佐渡にこいっちゃ」運営)
飼育しているトキを見学できる「佐渡トキ保護センター」(トキの森公園)。こちらには行ったことがあるという方も多いかと思います。
この保護センターから少し離れた場所に、「佐渡トキ保護センター野生復帰ステーション」があります。保護センターで飼育しているトキを、佐渡の自然界に放鳥するための施設です。ここで自然環境下でも生きて行けるように訓練を行い、ここから放鳥しています。
実際の佐渡の里山に近い環境を再現した巨大な「順化ゲージ」がありますが、これらの施設は一般公開はされていません。少し離れた「観察棟」から順化ゲージなどの外観を見る事しかできないのですが、、、年に一日だけ、この野生復帰ステーションの”一般公開”があります。
2015年は11月21日に開催されました。順化ゲージで訓練を行ってないこの時期にしか公開できないため、めったにない機会です。なのに参加は無料!ということで参加してきました。
普段は閉ざされている正面ゲートから入り、少し歩くとログハウス調の建物「管理棟」が見えてきます。
定刻より少し速めなのですが、既に10人以上の参加者が集まっていました。これまでのトキ人工繁殖や放鳥への取り組みをまとめたビデオを見ながら、参加者が揃うのを待ちます。
いよいよ一般公開はじまりました。ざっと見た感じ30人くらいの参加でしょうか。小さなお子さん連れたご家族連れから、関西からわざわざこの日に合せて来島された方までおられました。再度、朱鷺に関するビデオを見た後、環境省の担当官さんが、最新のトキ放鳥・野生復帰の状況などを説明して下さいました。
お待ちかねの野生復帰ステーションの中枢部、管理事務所へ入ります!室内には多数のモニターが並んでいます。トキはとても神経質な鳥なので、ちょっとした物音でも、びっくりして飛んだり騒いだりしてしまいます。そこで、普段はカメラを遠隔操作して、ケージの中のトキを見守っているそうです。
そして、飼育員さん達がトキの事いろいろ解説して下さいます。質問もなんでもOK!という事で参加者から色々な質問が飛んできます。
面白かったのは「トキは水に浮くのですか?」という質問。ツルや白鳥はよく水辺に浮かんでますが、トキはそれが出来ないそうです。足もそんなに長くないので、あまり深い水辺は好みません。でも水辺に居るドジョウやタニシやサワガニなんかを好んで食すので、田んぼで食べ物を探してます。
そう、トキは人間のすぐ近くに生息する鳥なんです。
そして、いよいよメインイベント、、、!順化ケージ見学です。管理棟から順化ケージへ通じる道の周辺にも飼育ケージがあり、そこでトキが飼育されています。トキがびっくりしないよう、大きな声でしゃべらないようにしながら移動です。
高さ15メートル、奥行き80メートルの巨大なケージの中には、池や止まり木、さらに稲が植えられた水田など、佐渡の里山が再現されています。
放鳥されるトキはここで約3か月、自然環境下で生きて行けるように訓練を受けます。
訓練は、餌の取り方や飛翔だけではありません。外の環境に慣れるために、このケージの中で軽トラックを走らせたりもするそうです。最初はゆっくりゆっくり走らせますが、それでも 今まで見たことも無い動く自動車を見たトキは驚いて逃げてしまうそうです。徐々にならさせて行くのだとか。
ケージ内は奥へ行くほど高くなっていきます。普段、ここで訓練中は、飼育員さん達も奥の方へは立ち入らないルールにしているそうですが、今日は奥まで登って行きます。
ケージの中で最も高い止まり木。トキ達は普段この止まり木をねぐらにしているそうです。地表からできるだけ高い所の方が安心できるらしいとか。
天井をよーく見るとネットが張ってあるのが分かりますでしょうか?飛翔したトキが天井にぶつかってしまっても、このネットがクッションになるようにしているそうです。
他にも、ケージの外側には弱い電流が流れるようになっています。外部からトキを捕食しようとする動物などが侵入しないようにしているとか。
順化訓練を繰り返しながら、少しづつ工夫を重ねているそうです。
順化ケージの見学も終わり、管理棟に戻ってきました。先ほどの管理事務所や会議室の下の階で色々展示してあります。
こちらは実際にトキが作った巣です。真ん中にある黒いものはビニール復路の切れ端。こんなものも巣の材料にしているそうです。ヒナはさすがに本物ではありませんが、卵は本物(無精卵)です。
こうして、今年の野生復帰ステーション一般公開は終了しました。
実はこの翌日(2015年11月22日)、両津の「あいぽーと佐渡」でトキ野生復帰シンポジウムが開催されました。
2003年に策定された「環境再生ビジョン」で、『2015年頃に小佐渡東部(後に佐渡全域に変更)に60羽を定着させる』という目標が掲げられました。「定着」とは、1年以上継続して生息し繁殖活動も行っている個体を指します。現時点で佐渡全域に放鳥されたトキ(生存扱い)は117羽。という事で目標はほぼ達成されたという事で、次の目標として『5年後に佐渡島内に220羽のトキを定着させる』という案が示されました。
自然環境下でトキを定着させ数を増やしていくためには、トキの餌になるドジョウやサワガニなどが生息できる環境を作り維持する必要があります。そのためには、ドジョウやサワガニなどの餌になる昆虫や水草などが生息できる環境が必要。つまり、トキを野生に復帰させるためには、トキだけでなく自然や里山全体の環境を取り戻し維持していく事が不可欠なのです。
トキの野生復帰と環境再生の取り組みも含めて、ぜひ皆さんも 佐渡での取り組みを見にいらしてください。
野生復帰ステーションの一般公開は、例年通りであれば毎年10月頃に佐渡市のウェブサイトや、佐渡トキ保護センターのウェブサイトなどで告知があります。(事前申込制、ただし当日余裕があれば申込み無しでも参加可能)
佐渡トキ保護センター 野生復帰ステーション
※一般公開の日以外は、敷地内にある観察棟から順化ケージの外観を見る事が出来ます。
- 〒952-0101 新潟県佐渡市新穂長畝377-4
- http://tokihogocenter.ec-net.jp/
この記事のライター あらきやすし(会社員・「佐渡にこいっちゃ」運営)
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