新潟から世界へ!! 塩川酒造の魅力

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この記事のライター 伊藤 薫(国際イメージコンサルタント)

写真の「COWBOY YAMAHAI」と「FISHERMAN SOKUJO」は、新潟市西区内野町塩川酒造で造られている海外輸出向けのお酒である。

瓶の見た目からは中身が日本酒であることさえ想像もつかないが、伝統的な日本酒作りを守り抜き、それぞれ洋食の肉料理に合う味、カニやエビなど濃厚な料理に合う味を追求しつくされた酒だ。

この洋食に合う日本酒を開発したのは、新潟市西区にある塩川酒造の杜氏、塩川和広さん。

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酒造の家に生まれた塩川さんが酒造りを意識し始めたのは、中学生の頃だったという。

顕微鏡で見るミクロの世界。日常的に身近に棲息する微生物を見るのが何よりもの楽しみだったと語る。親からも酒蔵を継ぐことを言われてはいたが、それよりも自分自身が好きな微生物の世界に没頭できる酒蔵での仕事はまさに天職であると少年ながらに感じていた。

それから十年。広島の研究所時代に山廃仕込みの菊姫に出会った。

それまでの山廃は塩川さんにとって臭いイメージの酒。蔵によっては発酵というよりは腐敗に近い味がするという。

山廃の菊姫は臭みもなく芳醇な香りと濃厚で飲みごたえのある酒質であった。華やかな純米大吟醸酒とも全く異なる味だ。

この菊姫が、菌が持つ自然の力を活かす酒造りを志すきっかけとなったという。

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塩川酒造の麹室(こうじむろ)

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醸造タンクに入るのを待つ糀

酒母づくりの技法、山廃と速醸酛

お酒の元になる酒母を作る技法は、大きく分けて生酛(きもと)と速醸酛(そくじょうもと)の2種類がある。

生酛造りは、江戸時代の元禄年間ごろに確立され、現存する酒造りの技法の中でもっとも伝統的な造り方である。水、蒸した米、麹を合わせ、ここに酒蔵の中に棲んでいる乳酸菌や硝酸還元菌や酵母が自然に入り、育つのを待つ。

その際、米を櫂棒ですりつぶす山卸しと呼ばれる作業をする。この山卸しがたいへんな重労働であるため、しだいに工程を省略する手法が探究され、明治時代に山卸しを行わない製法、『山卸し廃止酛』が確立した。これが『山廃』である。

一方、速醸酛は他の雑菌が繁殖しないようにあらかじめ乳酸菌を人工的に添加する技法だ。現在の酒造りのほとんどはこの技法で造られている。

山廃だから良い、速醸だから手が込んでいない、ということではないと塩川氏は言う。

「打ち出すコンセプトにあった技法で作る。ただそれだけのこと。女性に人気のフルーティーな味わいの日本酒は速醸元だからこそ完成できる」

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塩川酒造の山廃仕込

塩川さんは、平成15年に同蔵の杜氏となり、その2年後の平成17年から山廃仕込みに取り組んできた。

水、麹、米を合わせ、最初は温度を一定に保ち硝酸還元菌が十分に育つのを待つ。

その後温度を少し上げ、乳酸菌が育ちやすい環境を作る。菌というのは温度に非常に敏感で、一度その菌が育ちやすい温度で育ててしまえばその他の雑菌に侵されることもないという。

他の雑菌の繁殖を許さない、この絶妙な温度管理が芳醇な香りと濃厚な味わいをもたらすのだ。

最初の年は、塩川酒造の看板商品である「越の関」の山廃純米大吟醸を販売した。これが大好評で、次の年から改良を重ね、4年後の平成21年から山廃仕込みの「願人(ねがいびと)」が発売開始となった。江戸時代に新川の掘削工事で活躍した18人に思いを馳せる酒である。

塩川さんの造る日本酒にはすべて物語があるのだ。

コンセプトを決めてからどんな酒米を使うか、どんな仕込み方法にするかが決まっていくという。

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塩川酒造を訪れた4月上旬のこの日、搾りたての「COWBOY YAMAHAI」と「FISHERMAN SOKUJO」がこちらのタンクの中に注がれた。タンクで数ヶ月寝かせることにより、少し発泡した華やかな味わいから、深みのある落ち着いた味わいに変わっていく。

世界で通用する日本酒とは何か

現在、若者の間では日本酒はあまり飲まれていない。日本の日本酒市場は年々縮小して行く一方だ。

同じ醸造酒でも、ワインの場合はどうだ。年々フランスは輸出量を伸ばし、世界の醸造酒のシェアの割合はワインが99.5%、日本酒はなんと0.5%に満たないのである。

「日本国内では蔵元が店を閉じている。ここ内野にもつい最近まで4つの蔵元があった。なのに、今はウチと鶴の友の樋木酒造さんだけ。ウチみたいに小さな蔵は大きな蔵との価格競争には絶対に勝てない。ならどうするか?考えた結果が、海外輸出だったんです」

と、塩川さんは語る。

しかし、最初はまったく売れなかった。

海外に出荷すると値段は倍以上になる。庶民の手には届きにくいし、海外の富裕層はビンテージもののワインに100万円を支払っても1万円未満の日本酒が選ばれることはない。

海外の日本料理店にはすでに大手の蔵元が現地工場で生産した安価な日本酒を卸しており、そこに勝負に行っても勝てない。

それならば、どうするか?

そこで塩川さんが目をつけたのは、日本料理店よりも遥かに店舗数の多いステーキハウスだ。

すでに日本酒が入っているステーキハウスもある。しかし、ステーキにはワインという組み合わせがあまりにもポピュラーで、日本酒を飲んでみようというのは海外在住の日本人くらいだ。

ワインと変わらない面持ちで、ビンを並べることができたら…?

そこで「COWBOY YAMAHAI」は、肉料理に合わせるため酸味を意識した酒質に、ビンもワインと見間違うようなデザインに変わった。

すると、ワインと一緒に並ぶ「COWBOY YAMAHAI」を見つけて、「見たことないのがあるね、ちょっと飲んでみようか?」といった具合で選ばれるようになってきたのである。

年々、「COWBOY YAMAHAI」と「FISHERMAN SOKUJO」を輸出する国は増えてきている。

初公開!! 紅い日本酒

今年は新たな取り組みにも挑戦した。ワインと勝負するには「健康志向」がキーワードになると考えたそうで、ポリフェノール入りの日本酒を開発したのである。

古代米を利用して醸造した日本酒。

写真の撮り方が悪く肝心の部分がぼけてしまったが、赤ワインと言っても良いほど真赤な日本酒が完成していた。

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味わいも日本酒とは思えない。

飲みやすく、フルーティーだが「FISHERMAN SOKUJO」のフルーティーさとは明らかに違い、サッパリとした口当たりでありながら芳醇な香りが広がる。

この酒粕も試食させていただいたが、酒粕も全く別物でヘルシーな味わい。

海外向けで赤ワインと戦うために醸造したこの赤い日本酒は、女子受けすること間違いなしである。500本程度の限定発売になるとのことなので、見かけたら即買いしてほしい。

仕込みの落ち着く6月から9月中旬までは連絡があれば蔵の見学も受け付けているとのこと。

それぞれのお酒の物語に触れながら、塩川さんの日本酒を味わってみてはいかがだろうか。


伊藤薫ライター 伊藤 薫(国際イメージコンサルタント)

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※本記事の内容は取材・投稿時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報につきましては直接取材先へご確認ください。